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最高裁判所大法廷 昭和27年(あ)5877号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

職権により調査するに、被告人には他人の自転車を窃取した犯行があるとして起訴されたものであるが、第一審裁判所は起訴にかかる公訴事実を認めるに足る証明がないとして無罪の判決を言渡した。これに対し、右判決は事実を誤認したものであるとして検察官から控訴の申立があり、原審は検察官の右控訴趣意を容れ前記第一審判決を破棄し、自ら何ら事実の取調をすることなく、ただ訴訟記録及び第一審裁判所で取り調べた証拠のみによって、直ちに被告人に対し有罪の判決を言い渡したものであることは、本件記録に徴し明らかである。

しかし本件の如く第一審判決が犯罪事実の存在を確定せず、犯罪の証明なしとして無罪を言い渡した場合に、控訴裁判所が右判決を破棄し、何ら事実の取調をすることなく、訴訟記録及び第一審裁判所で取り調べた証拠だけで直ちに被告事件について犯罪事実の存在を確定し有罪の判決をすることは、刑訴四〇〇条但書の許さないところであることは、昭和二六年(あ)第二四三六号同三一年七月一八日言渡大法廷判決の示すところである。従って、自ら何ら事実の取調をすることなくして、無罪の第一審判決を破棄して前記の如く直ちに有罪の言渡をした原判決は違法であって、弁護人の上告趣意に対する判断をまつまでもなく原判決は破棄を免れない。

よって、刑訴四一一条一号、四一三条により主文のとおり判決する。

この判決は裁判官田中耕太郎、同斎藤悠輔、同本村善太郎、同池田克の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。

裁判官田中耕太郎、同斎藤悠輔、同本村善太郎、同池田克の反対意見は次のとおりである。

犯罪の証明なしとして無罪の言渡をした第一審判決を破棄し、訴訟記録及び第一審裁判所において取り調べた証拠のみにより直ちに判決することができるものと認め、被告人に対し有罪の言渡をした原判決には何ら違法はないこと、前記大法廷判決記載の田中、斎藤、本村三裁判官の反対意見のとおりであるから、本件上告は棄却さるべきものである。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 池田 克)

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